国や自治体への働きかけ政策提言

総合事業の対象者拡大に関する緊急声明を提出(10/28)

介護保険法施行規則の一部改正に対し次のような緊急声明を厚生労働大臣あてに提出しました。

※シルバー新報(2020年11月6日付)でも紹介されました。記事は【こちら】

▼緊急声明▼
「総合事業の補助によるサービスの対象者は「継続利用要介護者」のみでなく「希望するすべての要介護者」とすることを求めます。

介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)の対象者の弾力化について、2020年10月22日付けで省令が改正され、「第1号事業における補助により実施されるサービスを継続的に利用する要介護者を追加する」見直しが行われました。補助による住民主体のサービス(訪問型サービスB,D、通所型サービスB)を利用していた人が要介護認定を受けた場合、引き続き総合事業の対象者と認められるというものです。

しかしながら、2020年7月27日の社会保障審議会介護保険部会における第8期介護保険事業計画策定に向けた「基本指針」見直し案や7月31日の全国介護保険担当課長会議資料においては、従前相当サービスを含むすべての総合事業のサービスが対象で、また、継続的な利用に限定しない案が示されていました。

当法人には、介護保険部会の資料にあるように「サービスの対象者を限定しているような補助制度は、助け合い活動にはなじまない」、「生活の中の困りごとの支援が必要なのは総合事業対象者に限ったことではない」「対象者が要支援者等に限られることで、住民が主となり実施しているにもかかわらず、事務負担が大きくなるとともに、事業が実施しにくい」といった市町村や実施主体の意見が寄せられていました。そのため、貴省の案に期待を寄せ、9月17日付で訪問型サービスDについて対象者の弾力化を含む一層の推進を求める要望書を貴省に提出しました。会員団体からも、都道府県や市町村に同様の要望書を提出することで弾力化の案の周知を図り、複数の市町村の介護保険事業計画策定支援や実施主体の今後の展開への情報提供も進めておりました。しかし、貴省の方針が突然一変したことによって、市町村はこの段階で介護保険事業計画や予算の見直しを迫られることになりました。

今回の省令改正について改めて考察すると、パブリックコメントの意見を踏まえたものとは思えず、何より住民主体のサービスの活動実態にあった改正ではありません。貴省の資料によれば、パブリックコメントの意見は介護給付と従前相当サービスやサービスAが並ぶことに対する意見と読み取れます。同じ内容でありながら異なる単価のサービスが選択できるようになることについて、その影響に対する介護保険事業所等の懸念は当法人も理解するものです。しかし、住民主体のサービスの実施団体は介護給付では提供できない多様な支援を提供しており、特に移動支援(訪問型サービスD)は介護給付には存在しないサービスで、それが不要という意見は一切ありませんでした。介護給付の「通院等乗降介助」だけでは、要介護者の移動ニーズに応えられないのです。

加えて、住民主体のサービスは地域の実情に応じて要介護者も利用しているものであり、指定や委託によって実施されているサービスとは異なり、要介護認定の更新によって要介護者になったからといってサービスが利用できなくなる性質のものではありません。総合事業のガイドラインの中で、利用者に要介護者が含まれていても「対象の半数以上が要支援者等であれば運営費全体の補助が可能」「半数を下回る場合は、利用者数で按分する等、合理的な方法で」という考え方が示されてきたとおりです。

今回の改正で市町村や実施団体が求めていたのは、このような按分による補助額を改善するということもありますが、それだけではありませんでした。住民主体のサービスの対象者は日々変動するものであり、多くはボランタリーな活動です。自治体の意見にもあるとおり、住民主体のサービスを広げていくためには、利用者の要介護度の割合によって按分額が変わったり、利用の手続きが変わったりするという制度の複雑さを是正することも重要です。今般の省令改正によって、継続して利用している要介護者とそうでない要介護者、要支援者等の把握や報告等が必要になれば、今まで以上に負担が増え、地域の互助の推進の足枷になってしまうのではないでしょうか。

全国各地で地域公共交通の撤退や減便が続いていますが、代替としてタクシーを使えない高齢者はたくさんいます。免許返納も進む中、全国で高齢者の「足」の確保は大きな課題となっています。当法人には日々、市町村や社会福祉協議会、実施団体等から多くの相談が寄せられています。住民主体の補助による多様なサービスについて継続的に利用する要介護者に限定することは、反対の意見も寄せられていない的外れな改正であり、同意することはできません。
以上のような経過を踏まえ、総合事業の補助によるサービスの対象者は「継続利用要介護者」のみでなく、「希望するすべての要介護者」とすることを求めます。
以上

<賛同団体>
 公益財団法人 さわやか福祉財団
 一般社団法人 全国食支援活動協力会
 住民参加型在宅福祉サービス団体全国連絡会
 認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター
 認定NPO法人 市民福祉団体全国協議会
 NPO法人 介護者サポートネットワークセンター・アラジン
 NPO法人 さっぽろ福祉支援ネットあいなび
 青森県移送サービスネットワーク
 NPO法人 移動サービスネットワークみやぎ
 やまがた福祉移動サービスネットワーク
 福島県移動サービスネットワーク
 茨城福祉移動サービス団体連絡会
 とちぎ地域福祉ネット
 群馬県住民参加型在宅福祉サービス団体連絡会
 埼玉県移送サービスネットワーク
 移動支援ネットワークちば
 認定NPO法人 かながわ福祉移動サービスネットワーク
 認定NPO法人 横浜移動サービス協議会
 福井移動サービス研究会
 NPO法人 さわやかさばえボランティア虹
 NPO法人 移動ネットあいち
 いが移動送迎連絡会
 関西STS連絡会
 NPO法人 ジャスミン
 しまね移送サービス団体ネットワーク
 NPO法人 移動ネットおかやま
 NPOえひめ福祉移動サービス支援センター
 NPO法人 地域サポートの会さわやか高知
 さが福祉移動サービスネットワーク
 熊本外出支援ネットワーク
<賛同者>
 嶋田暁文/九州大学法学研究院 教授
 椋野美智子/松山大学人文学部社会学科 特任教授
 結城康博/淑徳大学 教授
 (2020年12月24日現在)

・全文(PDF)はこちら

▼改正内容
最新介護保険情報 vol.885より
老発1022第1号 令和2年10 月22 日
「介護保険法施行規則の一部を改正する省令の公布について(通知)」

▼9月17日付で全国移動ネットが厚生労働省に提出した要望書
「第8期介護保険事業計画における移動支援(訪問型サービスD等)の普及拡大に関する要望」