セミナー・シンポジウム等

2014年10月10日「自家用有償旅客運送の事務・権限移譲に関するセミナーin大阪」を終えて


2014年10月22日
文責:伊藤みどり


→当日資料(全文)は こちら

10/10に、日本財団の助成を受けて「自家用有償旅客運送の事務・権限移譲に関するセミナーin大阪」を開催しました。

参加者70余名の中には、NPO関係者のほか、社会福祉協議会や自治体やコンサルの方も複数いらっしゃいました。

今回は、講師が4名だったため、それぞれのお話をじっくり伺うことができ、最終的には福祉有償運送等の役割や、今後取り組むべき課題、その際の考え方を、みんなで確認することができたセミナーでした。

全体討論では、参加者から非民主的な運営協議会の実情が報告され、それに対し、講師だけでなく会場の学識研究者の方(運協座長)からも助言があったりと白熱しました。

講師陣のお話の中で、印象に残った点を列記してみます。

近畿運輸局・黒田課長

・手挙げ方式の移譲、というのはこれまで聞いたことがない。市町村運営有償運送は市町村が自らを登録させる、このあたりもどのようなしくみになるのか?本省からガイドラインが出るまでは分からないことが多い。

・自家用有償旅客運送の制度は例外規程から始まったため、「補完的役割」だが、地域の事情が変化し時代の要請から生まれたと認識している。市町村に温度差があり、事業者との調整が必要という面もあり、右肩上がりにはなっていないのが実態。福祉有償運送はローカルルールも問題。

九州大学大学院・嶋田准教授

・移譲によって「自治事務」になる意味=国の通達は技術的助言であり、自治体は本当に地域にあった制度運用をしていくべき(そもそも交通モードの選定、しくみづくりに失敗している例も多い)

・運営協議会の問題点をクリアすることが最大のポイント。登録権者と運営協議会の主宰者は同一に。ブロック開催の運協ではだめ。複数地域の運行は所在地のみで申請、とすべき。

全国移動ネット・山本理事

・地方分権は、国と地方が対等のはずだが、そうなっていない。移譲のインセンティブもない。唯一「自主解釈」に期待。

・「旅客の範囲の拡大」はされるが、地域外の旅客について制限が多すぎる=移譲等のあり方検討会報告書。制度見直しには、自治体からの提案・要請が必要。

・改めて自治体と福祉有償運送等の意義や課題を理解してもらう必要がある(被災地では外出支援で精神的ケア実践、移動サービスは、住民が計画に参画するだけでなく、自ら運行する  ことで、傍観者を関係者にできる。地域をよくする活動)

大阪大学・猪井助教

・トップダウンで社会システムを作っても社会問題は解決できない時代になっている。ニッチからボトムアップで社会の潮流を作っていく視点も大事。例えば今の制度設計がタクシー業界の常識を前提としたものだとしても、福祉有償運送の団体が見ているニッチな視点を積み上げることで新しい潮流ができていく。それぞれは、少しずつ違う方向を向いていても情報や課題の共有を繰り返していくことで新しい社会の潮流ができていく。

   ※「レジーム」(ルールの集合)という言葉を用いて、ニッチな
   レベルでの革新が「絶好の機会に乗じて、新らたな確信が
   生じレジームに修正が起こる」、そして「市場、産業、政策や
   文化等に関する新たなレジームが社会の潮流を作り出す」
   という流れを話されました。

先生方のお話もさることながら、近畿運輸局の黒田課長から、手挙げ方式は未経験なので、既に地域公共交通会議や運営協議会を開いているところから意見を伺いながら移譲を進めていきたい、今は一つでも多く挙げてもらうというよりまずどこに手を挙げてもらうかという段階であり、良い先行事例を作っていけたらいいというご発言があり、一方通行でなく、会話していける雰囲気ができました。