セミナー・シンポジウム等

2014年10月20日「自家用有償旅客運送の事務・権限移譲に関するセミナーin仙台」を終えて


2014年10月29日
文責:伊藤みどり


→当日資料(全文)は こちら

 10/20に、日本財団の助成を受けて「自家用有償旅客運送の事務・権限移譲に関するセミナーin仙台」を開催しました。 NPO関係者、社会福祉協議会、自治体関係者、タクシー事業者等、幅広い立場の方々にご参加いただきました(スタッフ含め76名)。

 今回は、運輸局、研究者、全国移動ネットのほか、市町村運営有償運送を通じて市内全域の生活交通をデザインしている栃木県大田原市や、福祉有償運送を実施している団体として社会福祉法人つどいの家からも講師をお招きしました。
 多様な立場の講師・参加者がいらっしゃったこと、幅広い視点から協議できたことによって、色々な取り組みの実態を俯瞰的に理解することができました。また、吉田准教授の「総力戦」「網形成による適材適所化」というキーワードは、市町村が果たすべき役割を明確にし、移譲をどう生かすかという問いへの重要なヒントになったと思います。

下記に、講師陣のお話の要旨をまとめました。

東北運輸局・兼平課長

(資料に沿って、移譲の経緯・内容・制度見直しの検討状況を説明され、質疑に対しては)運営協議会における運輸支局の関わり方は、移譲したから何かが変わるということはない。運輸支局によって対応が異なるというのも基本的にはないはず。

つどいの家・高杉コーディネーター

 約50年前に発足し、障がい者の生活を支援する様々な取り組みを続けてきた。福祉有償運送は、家族の体調不良や冠婚葬祭等をサポートするために始めたレスパイト事業として実施している。利用者は全員重度の知的障がいがあり、半数は身体障がいもある。公共交通機関は利用が困難、特別支援学校のバスに一緒に乗れないといった方々へのサポートが求められて始めたが、現在は役所の手続きや散髪、スポーツ観戦等、様々な社会参加に利用されており、利用者自身が外出する喜びを感じている例も多い。
 一方で、運転者は不足している。28名中、一般の運転者は8名で残りは法人職員。この8名も専門職が殆ど。新規で運転者を募集するにも、重度の知的障がいのある利用者への介助・接遇といった面では、お願いするまでに時間がかかる。また、車の維持や事務の負担、手続きの煩雑さも問題。移譲で二度手間な印象が軽減されるという期待はあるが、それ以外には実際に事業として何か変化が起こるのか、利用者はどうなっていくのか分からない。
 皆さんの話を聞いて、自治体任せではいけないのかもしれないと感じている。

全国移動ネット・山本理事

 移譲で求められる効果は、地域の実情に応じた創意工夫による移動手段の確保ができることとされている。前提として、国と地方の対等な関係であること、国は地方の状況を詳しく把握していないために地域に任せるのがよいという考え方がある。しかし、移譲すればできるようになること(=インセンティブ)は無い。あるとすれば「地域の自主解釈」ができるという点。法律・施行令・施行規則は移譲されても守らなければならないが、通達は技術的助言である。実際に、施行規則の内容が、通達によってさらに限定されている事項が多々ある。移譲されたら、通達の文言に捕らわれず、地域をよりよくするために何が出来るかを考えていくことがとても大事。現在も自主解釈はできるはずだが、逆にローカルルールになってしまっている場合も多いので、それを変えていかねばならない。
 一方、制度見直しについては、利用者の範囲拡大等が「移譲等のあり方検討会」最終とりまとめに記載されているが、地域が良くなると実感できる書き方ではない。自治体から国土交通省に見直しのはたらきかけをしてほしいし、NPOは自治体への問題提起をすべき。

福島大学・吉田准教授

 公共交通を取り巻く動きから見てみると、マイカーがあるから公共交通が成り立たなくなったという解釈があるが、北東北ではマイカーの保有台数が減り始めている。一方で、バスの乗務員も不足していて、宮城県は特に深刻。市営バスの運転手も宮城交通。市町村バスでも、儲かる路線でも乗務員がいないために減便せざるを得なくなってくる。総力戦で臨まなければならない状況。
 運輸行政は、事業(の育成)を見てきたが、2007年の地域公共交通活性化再生法で、地域公共交通政策を見るようになり、自治体の役割が制度的に大きくなった。しかし、今度は地域間格差が広がってきている。法定計画も国から予算がつかないと立てない・見直さない市町村も多い。また、移動手段はみんな大事だと思っているが、市町村と事業者と住民の方法論がそれぞれ違って、かみ合っていないので、それをつなげていかなければならない。一旦外出できなくなった人は出かけなくなりニーズが見えなくなってしまう。目に見える需要だけに応えていてはダメ。交通政策基本法に位置づけられているとおり、交通は生活と交流のためにある。交通事業者の収益事業ではなく公共政策。
 タクシーは、2009年のタクシー適正化活性化法で、初めて法的に公共交通になった。そして、今年11月に施行される改正「地域公共交通活性化再生法」では、「地域公共交通網形成計画(現:総合連携計画)」を市町村が策定できることになり、今まで以上にネットワーク形成が重視されるようになった。適材適所化を進めるという意味。特に、活性化再生法に基づく「地域公共交通再編事業」という新しい事業には、一般タクシーと自家用有償旅客運送が明記された。財政投融資を使って財政支援する予定(来年度概算要求中)。「再編実施計画」が国に認定されれば、自家用有償旅客運送の登録を受けたものとみなすこともできる。自治体は、権限移譲単体で勝負するメリットはないかもしれないが、活性化・再生法と一体で考えていけば、財政支援ができる可能性もあり、自家用有償旅客運送も連続性をもって一つの計画を作れる。今までもやろうとすればできたことだが、正面から出来ることになったのは大きな変化。「移譲等のあり方検討会」最終とりまとめでは、営利法人が自家用有償旅客運送を行う可能性にも触れている。交通事業者や自治体やNPOの垣根を越えて、おでかけ支援会社のようなものができてくるかもしれない。そういうトータルな制度活用が移譲を通じてできるといいのではないか。

大田原市生活交通係・君島主幹

 大田原市の市町村運営有償運送は、交通空白輸送として実施している市町村バスとして実施している交通空白輸送と、「高齢者等外出支援事業」として実施している市町村福祉輸送がある。平成19年度~平成28年度までのまちづくりの指針として、「新大田原レインボープラン」を作っており、その後記基本計画に二つとも位置づけられている。
 市町村バスは、平成4年以降、路線バスの10路線廃止に伴って、最大で15路線まで増えたが、地域公共交通総合連携計画を平成24年に見直し、現在は11路線。吉田准教授のアドバイスを受け、市町村バスの路線再編、需要に応じた大小の車両再配置、一部地域のデマンド化、スクールバスの民営化、新路線の導入、路線バスを含む競合路線の再編などを行った結果、本来の役割分担に戻り、通院や買い物等それぞれの目的で利用者が増加しつつある。
 一方、「高齢者等外出支援事業」は、通院目的の高齢者の通院のために、片道300円になる利用券を年間51回分配布している。事業の実施主体は市社協で、運行は1社2団体が行っている。先月まで対象だった「65歳以上のひとり暮らし高齢者」「65歳以上の高齢者のみの世帯及びこれに準ずる世帯の高齢者」を対象外とした(福祉有償運送と同様の対象者になった)。対象外となった方のうち希望者は、新制度「高齢者通院等タクシー事業」に移行。市内には福祉有償運送もあるが、それぞれの介護施設を利用している人に限られている。
 軽度者対応の問題はあるが、現在のままでも住民ニーズをカバーできるため、移譲に手を挙げる予定はない。

 ディスカッションでは、「一人の構成員が我が物顔の運営協議会は、移譲したら一層ひどくなるのではないか、運輸支局の関わりはこれまでと変わるのか」「複数市町村の合同運営協議会は移譲されるとどうなるのか」「今回の制度見直しにとどまらず、移譲後も自治体から国に制度見直しを求めることが大切」「せめて法令に違反しない範囲で自治体が柔軟に運用できるというのでなければ、移譲を希望する市町村は出ないのではないか」「タクシー事業者としては、自治体に『現場』を見てしっかり管理・運営してほしい、そうすれば必要な制度見直しには反対しない」といった質問や意見が出ました。